タイトルを見ただけで「アニサキス」のことだとわかった方も多いと思います。当クリニックに「アニサキスかもしれない」と思って受診される方も多いため、世間の認知度は高いと思います。クリニックを開院してからの2年間で29例の胃アニサキスを認めた患者さんに対し内視鏡的摘出術を行いました。胃アニサキス症について内視鏡画像を交えながら、一般的なことを述べていきます。
胃アニサキス症を発症するまで
アニサキスの成虫はクジラなどに寄生する回虫ですが、その白い体長2cmほどの幼虫がサバ、イカ、イワシ、アジ、サケ、カツオ、タラなどに寄生していることがあります。それらのお刺身などを摂取してから4時間から12時間後にみぞおちの痛みで発症します。当クリニックは一般的な統計と同じくサバが最も多く7例、北海道ということもあり、ソイという魚が4例で2番目に多く、イカとサケが3例で続き、ヒラメ、ニシンが2例、他にカツオ、マダイ、ブリなどでした。注:お寿司屋さんや居酒屋でいろいろな種類の寿司や刺身を食べた後など原因の魚を特定するのが難しい方も数名おりました。
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白いアニサキスが見えます
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写真は食道と胃のつなぎ目です。4例はこのあたりに刺さっており、わかりにくい症例もありました
症状
胃の激痛として感じることが多く、時間がたつと少し痛みがやわらぐも、また強い痛みに変わるという波を繰り返す間欠的(かんけつてき)な痛みが典型的です。嘔吐を伴うこともあり、当クリニックでは9例と31%の患者さんに認めました。胃アニサキス症は胃の粘膜にアニサキス虫体が刺さることにより、アレルギー反応から痛みを引き起こすと言われています。よって、人生で初めてアニサキスが胃粘膜に刺さった場合は、無症状や軽い痛みで済む方もいると言われています。アレルギー反応のためじんま疹を認める場合もあり、当クリニックでも1例いました。
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強い痛みによるストレスなのか、十二指腸や胃にびらん(ただれ)が多発することもあります。写真は十二指腸で、白いのが多発びらん
治療
何も治療をしなくても4日〜1週間くらいで自然に軽快すると言われています。またアレルギー反応のため抗アレルギー薬やステロイド薬にて痛みが軽減することもあります。しかし、痛みはかなり強いことが多く我慢するのもしんどいため、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ検査)によるアニサキス虫体の摘出がベストな治療です。内視鏡で摘出してしまえば、すみやかに痛みが軽減します。当クリニックのようにすぐに胃カメラ検査を行なってくれる医療機関を見つけることが第一にすべきことです。時々、胃が痛すぎて、「何か食べて胃の中に入れたほうが楽になるかも?」と考え食事を摂取してしまう方がおられますが、食事を摂取していないことが胃カメラ検査をする条件になるので、水分はOKですが食事を取らないことを意識してください。「すごく胃が痛いが、胃カメラだけはしたくない」と思われる方もいると思いますが、鎮静薬を使用すれば楽に検査が終わりますので、早急に胃カメラ検査を受けにいきましょう。なお、何か異物を飲み込んでしまった場合は、当クリニックも含めてクリニックでは対応できないことが多いですが、アニサキスに関しては胃カメラ検査を行なっているクリニックならどこでも治療できると思います。
胃アニサキスの内視鏡的摘出の流れを載せます。
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胃壁の刺入部が出血性びらんといって、黒くなることもよく見られます
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内視鏡から出した鉗子(かんし)を開き
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アニサキスをつかみます
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それから、ひっぱります
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アニサキスがとれました。
その他
胃カメラでアニサキス虫体を1隻(せき)見つけた場合(注:1匹ではなく1隻というのが正式のようです)、内視鏡医は他にもアニサキス虫体がいないか入念に観察し、実際2隻、3隻いることも稀ではありません。もし胃カメラでアニサキス虫体を摘出してもらったあともそれほど痛みが軽くならない場合は、まだ残っている可能性もあります。もう一度、食事を摂取しないで治療された医療機関に相談しましょう。胃アニサキス症の患者さんから3隻摘出して帰宅してもらうも、痛みが続くため2日後にもう一度胃カメラ検査を行なったところ、1隻残しており再摘出した苦い経験がありました。
予防は−20度で24時間以上冷凍、70度以上で加熱することが有効です。スーパーや居酒屋で出された魚にもいますが、特にご自身で釣ったもしくは知人から釣った魚をもらった場合は、より一層注意しましょう。なおネットで「よく噛めば大丈夫」といった記事を見ました。治療の時に鉗子(かんし)を用いてアニサキスをつかみ、それから強く引っ張りますが、一度も途中でちぎれたことは経験ないため、信憑性は低いというのが個人的な感想です。
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強く引っ張って抜きます
まとめ
お刺身を食べた後の痛みはアニサキスが原因かもしれません。治療は何より上部消化管内視鏡検査(胃カメラ検査)による摘出がベストです。痛みを我慢しながら様子をみるよりも、すぐに胃カメラ検査が可能な医療機関を探しましょう。