突然、便に血液が混じっているのを見てしまうと焦ってしまうと思います。当クリニックに来院されるきっかけとして多いのが、便に血液が付着もしくは、多量の血液が排出されるといった訴えです。便に血液がついたときにはどのような病気を考えるのか?、どの病院を受診すればよいのか? 簡単に述べていきたいと思います。 *イメージがつきやすいために当クリニックで経験した内視鏡写真を多く載せましたが、気持ち悪いと感じられた場合は申し訳ございません。

血便とは?

その名のとおり便に赤い血液が混じっていることです。医学的には大腸や肛門など下部消化管からの赤い出血を「血便」、胃や十二指腸など上部消化管から出血した粘稠な黒い便を「下血」と分けることもありますが、血便、下血どちらを使っても伝わるので、症状を伝える際には気にする必要はありません。なお「便潜血」は健診で行う肉眼では見えない(見た目でわからない)血液の便への混入をみる検査のことです。便潜血陽性なら大腸カメラ

血便を生じる病気は?

一般的には真っ赤な鮮血であればあるほど、肛門もしくは肛門に近い大腸(直腸やS状結腸)からの出血を考えます。
逆に暗赤色の場合は肛門から遠い大腸からの出血、黒色の場合は胃や十二指腸からの出血のことが多くなります。ただし出血量が多い場合は、胃や十二指腸からの出血でも赤くなることはあります。小腸からの出血もありますが、頻度はとても低くなります。当クリニックで経験する代表的な病気を列挙していきます。

痔(じ)疾患

頻度が高いのは切れ痔(裂孔)やいぼ痔(痔核)などの痔疾患です。何となく切れ痔の場合、必ず痛みを伴いそうなイメージですが、痛みを伴わない場合も多いです。排便後に血液がポタポタ落ちたり、お尻を拭いたトイレットペーパーに血液が付着する場合は、より痔の可能性が高くなります。

 

写真はいぼ痔(痔核)

痔出血

虚血性腸炎

突然、左下腹部などに痛みを自覚、それから下痢、血便を認め、さらにしばらく血便が続く場合は「虚血性腸炎」という一時的な炎症の病気かもしれません。原因はよくわからないことが多いですが、一時的に大腸を栄養する血液の流れが悪くなり、大腸粘膜が荒れて出血してしまう病気です。自然に治癒しますが、血便の回数や量が多い場合は入院治療も検討されます。

虚血性腸炎

大腸憩室(けいしつ)出血

大腸憩室とは大腸の一部が外側に突出して丸い袋状のスペースができてしまうよくみる疾患です。普段は何も問題を起こさないのですが、時々炎症を起こしたり、突然多量の血便を生じることがあります。虚血性腸炎と違い痛みを伴わないことが多いです。自然に止血されることも多いですが、出血が止まらず、何らかの処置を必要とする場合もあります。

大腸憩室出血

感染性腸炎

他には食中毒の原因となる細菌からの出血があります。発熱を伴ったり、どちらかというと右側の腹痛のことが多いです。当クリニックにも受診されることがあるのが、焼き鳥などを摂取したあとに炎症を起こすカンピロバクター、時々ニュースで話題になるO-157(腸管出血性大腸菌)などが原因になります。

カンピロバクター腸炎による出血

潰瘍性大腸炎

突然の血便というよりは、下痢や腹痛などの症状が以前からあり、最初に血便が出たあともしばらく症状が続く場合は「潰瘍性大腸炎」という大腸に炎症を認める病気を考える必要があります。クローン病という同じように炎症を起こす病気もありますが、当クリニックでは潰瘍性大腸炎の頻度が圧倒的に多いです。こちらは完全に治癒する急性疾患ではなく、慢性疾患になるため通院治療が必要になります。症状が強ければ入院治療も必要になります。

潰瘍性大腸炎

大腸がん

そして皆さんが一番心配される「大腸がん」が原因となることもあります。それまでまったく何も症状がなく、急に血便を認めた場合は、大腸がんを真っ先に考えることはありませんが、一度は検査で確認したいところです。大腸がんの場合、ある程度大きくならないと出血を伴わないため、出血以外にも以前から便秘や下痢、便が細くなった、腹部に違和感を感じるなど症状を自覚していることが多いです。

大腸癌

その他

他にも大きな大腸ポリープ、薬剤関連性の腸炎、膠原病などの免疫異常、腸に潰瘍を生じる疾患(単純性潰瘍、直腸潰瘍)など血便の原因は数多くありますが、当クリニックで日頃診るのは上述した疾患がほとんどです。

血便、放置していませんか?

一番言いたかったことは、大腸内視鏡検査が可能な病院を受診し診察を受けることです。当クリニックでは大腸がんでないことを確認するために、大腸内視鏡検査を積極的に勧めております。実際に多いのは痔(じ)疾患であり、手術が必要な場合は肛門外科の病院に紹介となりますが、一度大腸内視鏡検査をして悪性の病気を除外しておきましょう。血便が短時間で何度も多量に出る場合、ふらつきなどを認める場合は入院も可能な総合病院への受診が望まれます。なお黒色便の場合は、上部消化管(食道、胃、十二指腸)からの出血を考え、胃・十二指腸潰瘍や胃がん、食道がんなどがないか調べるために胃内視鏡検査が必要になります。特に上部消化管からの出血の場合は緊急性が高いことも多いためクリニックより総合病院の受診がよいと思います。胃カメラも大腸カメラも異常を認めないのに血便が続く場合は小腸からの出血を考えることになります。

まとめ

血便を認めた場合は、消化管のどこからか出血しており原因をはっきりさせることが大事です。放置せず、すぐに病院を受診し、真っ赤に近い出血であれば大腸や肛門からの出血が考えられ大腸内視鏡検査を、黒い便であれば胃や十二指腸からの出血を考え胃内視鏡検査を相談しましょう。