先日、3日前から続く腹痛、下痢、血便にて24歳男性の患者さんが受診されました。たまたま受診した日の翌日に大腸内視鏡検査予約がキャンセルで空きがあり患者さんも希望されたため、翌日すぐに大腸内視鏡検査を行いました。
検査をすると盲腸と上行結腸に発赤、びらん、出血性粘膜、浮腫を認めました。この時点で何らかの感染性腸炎を疑い生検(組織検査)と便培養(細菌検査)を提出しました。
先に生検の結果が届きましたが、結果は感染より虚血を考えるとの報告でした。
そのあとに便培養の結果が届き、「大腸菌O157陽性、ベロトキシン2型陽性」の結果でした。よって確定診断は「腸管出血性大腸菌O157による感染性腸炎」となりました。
腸管出血性大腸菌は3類感染症のためすぐに保健所に届け出を行いました。患者さん本人にも電話で体調を確認しましたが、幸いほぼ症状はおさまっていました。症状が出る数日前に自宅で加熱不十分な牛肉を食べていたことがわかり腸管出血性大腸菌感染症の原因と考えました。
勤務医時代にも腸管出血性大腸菌感染症を診断したことがありましたが、血液検査、CT検査から普通の胃腸炎とは違うと考え、便培養で診断を確定するという流れでした。大腸内視鏡検査は症状がよくなったあとに大腸癌除外目的で検査したことはあったと思いますが所見は記憶に残っていません。恥ずかしながら、消化器内視鏡専門医にもかかわらず腸管出血性大腸菌による腸炎が虚血性腸炎の内視鏡所見と病理(組織像)が類似することを知りませんでした。今回勉強したため、ついでにブログを書くことにしました。
腸管出血性大腸菌(O157)感染症とは
大腸菌は腸管常在菌の一つであり、ほとんどのものは無害ですが、腹痛や下痢などの症状を起こすものは病原性大腸菌と言われ、5種類に分類されています。その中で臨床上最も重要なものが腸管出血性大腸菌です。腸管出血性大腸菌は血清型でO157、O111、O26などに分類されますが、O157が60〜70%を占めます。ベロ毒素(ベロトキシン)という病原性の強い毒素(O157では大半が2型)を産生し、6〜7%で溶血性尿毒症症候群や脳症を合併し重篤になる場合があります。2011年に焼肉店でユッケによる集団食中毒が発生し5名が亡くなられたのを記憶されている方も多いと思います。現在も毎年2000〜2500件程度、症状のある患者さんの届け出がされています。
原因
もともとは牛などの腸管内に存在する菌のため生肉(ユッケ、レバーなど)や加熱不十分な肉を口にした場合に感染する事例が多いですが、牛肉の加工品やサラダ、白菜漬けなど様々な食品からの感染が報告されています。また、感染力が非常に強く、菌100個たらずで感染すると言われているため、感染した患者さんからの二次感染にも十分な注意が必要となります。
症状
3〜7日の潜伏期間ののちに激しい腹痛と下痢で発症し、そのあとに血便を認めます。発熱はあっても軽度で一過性のことが多いとされています。悪心や嘔吐も腹痛、下痢、血便と比較すると目立った症状とはなりません。そして上述しましたが6〜7%の方が腹痛、下痢の初発症状から2週間以内に溶血性尿毒症症候群や脳症などの重篤な合併症を発症することがあります。
検査
確定診断には便培養にて菌の同定とベロ毒素の検出が必要です。また、症状が強い場合には溶血性尿毒症症候群の有無をチェックするため尿検査や血液検査も必要になります。内視鏡検査を行うことはあまりないと思いますが、大腸内視鏡検査の特徴としては盲腸・上行結腸(右側結腸)に最も強い所見がみられ、肛門側(左側結腸)に移行するに従い所見は軽くなります。ベロ毒素が血管内皮を傷害することで微小循環傷害をきたし生じると考えられるため虚血性腸炎と類似した所見を呈すると言われています。
治療
特効薬はなく、一般的な感染性腸炎と同じく対症療法になります。細菌自体でなくベロ毒素が直接の原因となるため抗菌薬使用は積極的に推奨されていないようです。他の感染性腸炎と同じく下痢止めは症状を悪化させる可能性があるためできる限り使用しません。不運にも溶血性尿毒症症候群の兆候が見られた場合は早急に入院での集中治療となります。
まとめ
腸管出血性大腸菌(O157)感染症の内視鏡所見は虚血性腸炎と類似することを学びました。食中毒の原因としてはそれほど多くはありませんが、発症すると症状が強く、さらに不幸な転帰をとることもあるため、生肉や加熱不十分な食肉などは避けることをお勧めします。