専門ではないのですが、高血圧患者さんは日常の外来で最も診る機会が多いです。冬になると、外来で治療されている患者さんが、血圧手帳を見せながら「最近血圧が高くなっています。どうしてでしょう?」とよく質問されます。原因はいろいろあると思いますが、何点か考えられる可能性について調べたことを書きます。

高血圧の一般的なこと

収縮期血圧(俗に言う上の血圧)が140mmHg以上の方は平成28年の国民健康・栄養調査では男性34.6%、女性24.8%となっており、この10年間では減少傾向にありますが、身近な病気であることに変わりありません。血圧が高くても通常は何も症状は現れません。しかし、血管の壁に強い圧力がかかり続けると、血管が傷つき、知らないうちに脳、心臓、腎臓など全身の臓器障害を起こし、死に至る危険性が高まります。高血圧治療ガイドライン2014では生活習慣の修正と題して6項目をあげています。①減塩 ②脂質:野菜・果物の積極的摂取、コレステロールや飽和脂肪酸の摂取を控える、魚油の積極的摂取 ③減量 ④運動 ⑤節酒 ⑥禁煙 これらを意識して生活習慣を修正しても収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧(俗に言う下の血圧)が90mmHg以上の時には医療機関を受診された方がよいです。

日本人の高血圧の特徴

よく知られている事実ですが、世界的にみて日本人は食塩摂取量が多いです。平成28年の食塩摂取量の1日平均は9.9gと10年前より1.3gも低下しておりますが、厚生労働省が掲げている健康日本21での目標値は1日8.0gとなっています。さきほどの高血圧治療ガイドライン2014では高血圧患者さんに対し1日6.0g未満を推奨しています。ラーメン一杯の食塩含有量が6g程度なので、かなりきつい目標値ですね。塩分を取りすぎると血圧が高くなるのは、血液中の塩分が濃くなると、それを薄めるために周りの細胞から水分を血液に移行させて薄めようとします。それが、結果的に血液の量を増やし血管の壁に強い圧力がかかる、すなわち血圧を高くすることにつながります。

季節によって血圧は変わる?

前置きが長くなりましたが、冬になるにつれて血圧があがりやすくなる傾向を実際の診療で感じています。ガイドラインが引用していた文献では寒冷が血圧を上げ、心血管病による冬季の死亡率増加は暖房や防寒の不十分な場合ほど高くなるとあります。やはり寒いと血圧は上がりやすくなるのでしょう。また現職場の地域は冬の寒さが厳しいので、ウォーキングなどの運動量が減ることも関係しているかもしれません。また、医療系の雑誌を見ていると、尿中の食塩排泄量と血圧の間で季節変動があるか調べた施設がありました。血圧の季節変動は個人差があることを前置きした上で、尿中の食塩排泄量は夏が春や秋、冬と比較して明らかに少なく血圧も夏が低かったそうです。理由として夏季の発汗増多による塩分の損失によるものか、食塩摂取量の差が考えられたそうですが明らかではなかったとあります。夏は汗をかいて塩分が失われたり(ひどい時は熱中症の原因)、寒い時の方が塩分の多い食事をとりそうなイメージはありますね。*参考:荒川仁香,冨永光裕:降圧治療は冬と夏で変えるのか?,Medical Practice vol.34 no.8 2017

まとめ

冬になると血圧が上がってしまう方は、塩分摂取量をいま一度、見直してみましょう。他にも運動量や寒さ対策も考えてみてはどうでしょうか。血圧をコントロールして健康寿命を伸ばしましょう。