外来をしていると、健診などでコレステロールの値が高いと指摘される患者さんがよく来院されます。コレステロールの異常は「脂質異常症」と呼ばれ、①LDL-C(悪玉コレステロール)が高い、②TG(中性脂肪)が高い、③HDL-C(善玉コレステロール)が低い で診断されます。

最近、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2017年度版」が刊行されましたので、一部内容を私見を入れて簡単に噛み砕いて述べます。

まずは医療機関を受診して下さい

医療機関を受診する前に確認しておいてほしい事は、心筋梗塞など心臓の病気(冠動脈疾患)を若くして患った人が家族(両親、兄弟、姉妹、子供)にいるかどうかです。

また、普段かかりつけでない医療機関を受診される場合は、ご自身が過去に冠動脈疾患を患ったかどうか?、糖尿病や腎臓病、脳梗塞、末梢動脈疾患を持っているかどうか?など、ご自身の持病を確認しておきましょう。

医療機関では脂質異常症の背景に甲状腺や腎臓、肝臓の病気などがないか血液検査などでチェックしつつ、将来、冠動脈疾患を発症するリスクをスコア化します。また若い方の場合、遺伝性の「家族性高コレステロール血症」という病気でないかどうか確認します。

リスク分類で脂質管理目標値が決まる

リスクのスコア化は上記のチェックポイントの他に、年齢、性別、喫煙の有無、血圧、HDL-C、LDL-C 、耐糖能異常の有無(糖尿病予備軍の有無)などを考慮し、一次予防(病気の発症予防)対策として低リスク、中リスク、高リスクに分類していきます。そしてこのリスク分類ごとに脂質管理目標値が決まります。

ご自身が以前に冠動脈疾患を患っている場合は、早期発見・早期治療の二次予防に分類され、一次予防より厳格な目標値になりますが、ほとんどの方はすでに医療機関で治療されていると思いますので主治医に確認して下さい。

脂質管理目標値はすぐに算出できますので、医者から説明があると思います。スコアを算出するアプリもあり便利になりました。

治療の基本は禁煙と食事・運動療法

そもそも冠動脈疾患や脳卒中(脳梗塞、脳出血)など動脈硬化性疾患を予防するには「禁煙」が大前提です。ガイドラインでも強調されています。喫煙本数を減らすことや低ニコチン低タールたばこに替えることではリスク減少にはならず、「禁煙」が必要です。さらに受動喫煙を回避することも重要です。

そして、肥満傾向の方は食事・運動療法にて適正体重を目指します。適正体重の目安は身長をm(メートル)換算で二乗して、22をかけた数値です。身長160cmの方は1.6×1.6×22=56.3kgとなります。

特にTG(中性脂肪)が高い方はアルコールを控えることと、食事・運動療法が薬より大事になってきます。薬ではTGの数値はあまり下がりませんが、生活習慣が改善されれば大きく改善されるのを日常診療で何度も経験しています。

HDL-C(善玉コレステロール)が低い方は、ほとんどTG高値かLDL-C高値も一緒に存在しておりますが、運動療法で改善されることが多いです。

食事療法の実際

前述のように適正体重を目指すことが重要で、そのために総エネルギー摂取量を制限することが基本になります。その上で、LDL-C(悪玉コレステロール)が高い方は低脂肪食、TG(中性脂肪)が高い方は低炭水化物食を意識することが効果的です。

LDL-Cが高い方は脂肪の多い肉の脂身や動物性の脂肪(牛脂、ラード、バター)、乳製品、ケーキやお菓子類に含まれる人工的な脂肪酸を控えるようにしましょう。逆に食物繊維は腸からのコレステロール吸収を抑えてLDL-Cを下げてくれるので、野菜、大豆、海藻、きのこ類などの摂取量を増やしましょう。

果物は柑橘類、りんご、ナシなどが動脈硬化予防に効果的で、また糖質含有量の少ないグレープフルーツやキウイフルーツなどで脂質異常症の改善を認めたとの報告があります。ただし、過剰摂取はTG(中性脂肪)を増加させますので注意して下さい。

 

運動療法の実際

ガイドラインではウォーキングなどの有酸素運動を中心に毎日30分行うことを推奨しています。個人的には有酸素運動と同じかそれ以上にレジスタンス運動(筋トレ)を取り入れてほしいと思います。

運動療法によってLDL-C(悪玉コレステロール)が下がるとの報告もありますが、私の印象ではLDL-Cはそれほど下がらないも、TG(中性脂肪)の低下作用とHDL-C(善玉コレステロール)の増加作用は大きいと思っています。

若年、女性、高齢者それぞれの注意点

40歳未満の若い方でそれほど太っていないのにLDL-C(悪玉コレステロール)が高い、具体的には180mg/dL以上あると指摘された方は、必ず医療機関を受診しましょう。家族性高コレステロール血症と言って遺伝性の疾患であった場合、厳格な治療の介入が必要になります。

女性の方は閉経後に女性ホルモンであるエストロゲンが減り、LDL-C(悪玉コレステロール)が高くなることが多くなります。食事・運動療法でも十分に数値が下がらないことも多いため、薬物療法を検討することになります。特に喫煙、高血圧や糖尿病など他にリスクがないのに数値が脂質管理目標値より高い場合は悩ましいところで、定期的な医療機関の通院や薬代の負担を加味して治療方針を医者と相談することになります。個人的には健康食品やサプリメントを購入するよりは薬を内服して脂質管理目標値未満を達成した方が良いと考えています。

65歳以上75歳未満の前期高齢者は薬の治療による一次予防の有効性は確立していますが、75歳以上の後期高齢者では一次予防のエビデンス(有効な証拠・根拠)に乏しいそうです。一次予防において薬の効果を示すのは3〜4年かかると考えられており、医者と柔軟に話し合う必要があるでしょう。

まとめ

コレステロールが高い場合、禁煙と食事・運動療法など生活習慣の改善が大事になります。背景に遺伝性の病気や、甲状腺の病気などが隠れている場合もあるため、放置はしないで一度、医療機関を受診するようにしましょう。