前回のブログ更新からあっという間に1年がたってしまいました。そろそろ何か書かなくてはと思い、当クリニックで患者さんからよく訴えのある「食物つかえ感」に関連した内容にしました。

食物つかえ感もしくはのどのつまり感という表現でもよいのですが、そのような症状を自覚した場合、耳鼻科か消化器内科を受診されることが多いと思います。耳鼻科でのどの感染症と診断されることもあれば、消化器内科で逆流性食道炎と診断されることもあります。また、何も異常所見がなく咽喉頭異常感症やヒステリー球などと呼ばれる心因性と言われることもあります。まれにはなりますが食道癌や膠原病のこともあります。そして一般的にはあまり知られていないと思いますが慢性的な食道のアレルギーが原因となることもあります。

この慢性のアレルギー性食道炎を好酸球性食道炎と言います。日本では比較的まれな疾患であり、ばらつきが非常に大きいですが17〜500人/10万人程度と言われています。最近は消化器内科医に周知され報告が増えています。当クリニックでは2020年8月に内視鏡機器を最新のものにしてから、画質が良くなったおかげもあり診断することが多くなりました。少し内視鏡の所見がわかりにくいのですが一度診断できると、似たような所見のことが多いため、それからは目にとまるようになりました。おそらく私は過去にたくさん見落としてきたと思います。当クリニックで診断した患者さんで以前に他の医療機関で胃カメラ検査を受けて、食道の病気は何も指摘されていない患者さんも数名いました。

内視鏡機器のオリンパスEVIS X1という最新システムを発売してすぐに購入した2020年8月から現在2022年7月末でちょうど丸2年たったので集計したところ、好酸球性食道炎と診断した患者さんが7名いました。この2年間の胃カメラ検査の総件数は4745件でしたが、2回受けられている患者さんもいるため、正確な患者数は出せませんが3000〜4000人程度の患者さんとして7名なので有病率0.2%前後だと推測しています。ただ、当クリニックは他の医療機関に比べて好酸球性食道炎の好発年齢である30代後半から40代の患者さん割合が多いため、少し高い有病率になっている可能性があります。

好酸球性食道炎について一般的なことを当クリニックで経験した患者さんのことも交えながら述べていきたいと思います。
主に参考にさせてもらったのは次の2つです。

消化器内科第30号(Vol.4 No.5,2022):好酸球性消化管疾患   読みやすい雑誌ですが、アレルギー全般の基礎知識は難しいですね。何度か読み直しておおまかに理解できました。

阿部靖彦,佐々木悠,上野義之 : 好酸球性食道炎の診断と治療の進歩. 日本消化器内視鏡学会雑誌.2019,61 巻 3 号,225-242  ネットでダウンロードでき、好酸球性食道炎のことが網羅されており勉強になりました。

好酸球性食道炎とは

白血球の内、細胞内に顆粒を持つ細胞を顆粒球と呼び、好中球、好酸球、好塩基球の3種類があります。そのうち好酸球は顆粒によって細菌や寄生虫、ウイルスなどの病原体を攻撃します。その一方で、消化管壁の粘膜などと接触することでアレルギー性炎症を惹起することがあり、それが食道粘膜に起こり機能不全を起こす疾患を好酸球性食道炎といいます。なお、好酸球による消化管の慢性炎症を総称して好酸球性消化管疾患と呼び、炎症の部位により好酸球性食道炎と好酸球性胃腸炎に分類されます。発症には何らかの食物や花粉・ハウスダストなどの暴露が原因と考えられていますが、原因を特定することは難しいと言われています。また、患者さんが好酸球性食道炎について調べたときに、「指定難病」というフレーズが出てきて心配になり質問を受けたことがありますが、指定難病の対象となる中等症以上になることは多くないので、心配しないよう説明しました。

好酸球性食道炎の特徴

好酸球性食道炎は白人、男性で多く、先にも述べましたが30代後半から40代が好発年齢です。当クリニックで経験した7例は男性5名、女性2名、平均年齢が44歳(34〜51歳)でした。症状は小児と成人で異なりますが、成人はおもに食物つかえ感です。当クリニックでは患者さんによって症状の程度に大きな差がありました。「食物がなかなか入っていかず、水分も飲み込むのが辛い時があります」と、進行した食道癌でよく聞くような強い症状を訴える患者さんもいれば、「言われれば確かにつかえることがあります」と症状が軽い患者さんもいました。今回の2年間の集計期間前には無症状の好酸球性食道炎の患者さんもいました(*現時点で厳密には症状がない方は好酸球性食道炎と診断できませんが)。

好酸球性食道炎は他のアレルギー疾患を合併することが多いです。当クリニックの患者さんも7名中5名にアレルギー疾患(アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎など)がありました。またヘリコバクター・ピロリ感染が逆相関すると言われており、当クリニックでも7名全員がヘリコバクター・ピロリに未感染でした。

好酸球性食道炎の内視鏡画像

好酸球性食道炎と診断するには食道にかかわる症状があること、内視鏡で食道から生検という組織を調べる検査にて好酸球がある一定数以上存在することが必要です。

最初に当クリニックで経験した好酸球性食道炎でとくに典型的と思った患者さんの通常画像(白色光イメージング)とNBIと呼ばれる画像強調イメージングを提示します。縦に線が入るのと(縦走溝)と白いつぶつぶ(白色滲出物)があるのが特徴的です。他にも輪状溝、粘膜浮腫(血管透見低下・消失)、食道狭窄・狭細化と呼ばれる所見を認めることがあります。なお、似たような所見があり生検をするも好酸球を認めなかったこともありました。

次に他の6名の患者さんの内視鏡画像をすべて提示します。個人的にNBIで見つけることが多かったので、すべてNBIの画像を提示します。どれも似た画像だと感じてもらえると思います。

これらの内視鏡所見を認めた場合、生検を行い好酸球がある一定数認めれば診断が確定します。

好酸球性食道炎の治療

まずは胃酸をおさえるプロトンポンプ阻害薬(PPI)の服用を開始します。当クリニックは幸い7名全員、この治療で改善しました。こちらが無効の場合はカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(PCAB:タケキャブ)に変更すると改善することがあるそうです。それでも無効の場合は、気管支喘息に用いられる吸入ステロイドを口腔内に噴霧し、嚥下する方法が用いられます。他に欧米では原因となる可能性の高い食事を制限する食事療法が広く行われているそうですが、日本では薬物治療でコントロール可能な症例が大半であることなどから、食事療法は一般的ではありません。欧米では食道が狭くなって、食べ物がつまってしまう患者さんもまれではなく、食物嵌頓(完全につまる)で救急診療を受診する最も頻度の高い原因が好酸球性食道炎によるものだそうです。日本でも患者数が増えてきていますが、現時点ではそこまで重症な患者さんは極めてまれなので安心していいと思います。

まとめ

長く続く食物つかえ感、のどのつまり感などがある時はまれではありますが、好酸球性食道炎と呼ばれるアレルギー性の食道炎のこともあります。とくに気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎などアレルギー体質の方は、逆流性食道炎や食道癌、食道カンジダ症などの有無をチェックする意味においても内視鏡検査(胃カメラ検査)が可能なお近くの医療機関を受診しましょう。